2009年4月11日土曜日

深海生物ファイル―あなたの知らない暗黒世界の住人たち

北村 雄一 著/ネコ・パブリッシング
深海魚、本当に不思議なものだ。小学生の頃、図鑑でリアルなスケッチで見た深海魚に、見入ってしまった。言うなれば、遠い国にいきなり憧れの人が できた感じ。この本は探査船で撮った写真入りなので、本物です。
すごい。なにこれ?笑うしかない。

落とし穴―鎌倉釈迦堂の僧たち

杉本 苑子 著/PHP研究所

落とし穴だよー って警告もなしにある、それが落とし穴。小説も映画も、「まさかそんな風になるとは」っていう展開は 以外に少ない。小説も映画も、登場人物に感情移入させることによって 見る者を「物語」に参加させるけれど、物語とは少し違う「お話」がここにある。この本には、落とし穴としか言いようのない 展開が待っている。しかも「善意」や「道」に 身を捧げる僧たちをしてそんな落とし穴におとしめてしまう。

「人間はなぜ落とし穴に落ちてしまうのか」・・・「それは人間だから落ちてしまうのだ」 という問答が長い言葉で小説になっている という感じ。

小川未明童話集

小川 未明 著/新潮社

童話の要旨は因果応報。でもその結果にいたるあるいはいたらねばならないことが いっぱいある、ということも同時に 教えてくれている。童話としては異色の「野ばら」。『青年は黙礼をしてばらの花をかいだのでありました』小学校の教科書に出てきた「野ばら」。童話でありながら死を行間に読ませる文章に、これにかかわるいろいろな人の気持ちが にじみ出ている。

水域

椎名 誠 著/講談社

はじまりはいつも雨。・・・みたいにすでに巻頭から水。いつからなのか、なぜなのかも分からない、水に覆われてしまっている世界。その状況の描写だけで展開していく物語。だからこそ刻々と過ぎる「今」が面白い冒険小説。ある意味、ドラマの"24"よりずっと高度なリアルタイム性を感じさせてくれる。

終盤で行きつく、ある過去の記録で、一気に深みの増す感じが好きです。

武装島田倉庫

椎名 誠 著/新潮社

荒廃と争乱の世界。ハリウッド映画のように機械的な恐怖の未来ではなく、もっと「生き物」的な「泥沼」的な泥濘状態。かすかにつながっている個々の物語り群が、そこで生きていく人間そのものの運命の危うさそのものみたいで、生命の進化を追うような面白さを覚える。
1回読んだら、物語の登場人物のつながりを、時系列の系統図にして整理するともっと面白い!

天平の甍

井上 靖 著/新潮社

『こういうときになって、以前にはあれほど軽蔑していた単なる写経というものを、いやそれこそが、守るべき全てだと心底感じるようになる』・・・ この心境、きっと誰も経験する。漠然と存在に期待していた大きな何かが、近づく段になって実は最初から目の端に止まっていたちっぽけな糸きれが全てだった、という状況。それでもその糸切れが全て、それを 守ることが今の自分の全意義だという思い。

対象ではなくてそう思える境地こそが 尊い何かなのかもしれない。

真昼のプリニウス

池澤 夏樹 著/中央公論社

うさぎは、分かっているのに不思議と罠に つかまってしまう。
文中に出てくるこの一つのエピソードが、
まさに、説明の付かない人間の「衝動」を うまく表していると感じます。
身の危険を以っても鎮められない自身の 内なる衝動に身を任せる主人公の姿は、
読者にも同じような高揚感を抱かせます。
きっと読者の経験に呼応する何かがあるのだと思う。
クライマックス、最高峰に登りつめるような、
数学の「極限値」とも言うべき数行で 沸騰です。

スティル・ライフ

池澤 夏樹 著/中央公論社

『大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一定の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。

 たとえば、星を見るとかして。』

この本は2つの世界をつなぐ糸の一つです。

物の見方考え方

松下 幸之助 著/PHP研究所

長年にわたる経験に基づく「本質」が ちりばめられています。いくつかの言葉に、心から信奉してもいい と思わせるものがあります。ただし、書かれた年代が古いため、現在に対する記述は憶測にとどまっており、外れているものも あるということは要注意です。また、ある経験を他の全ての事柄に拡張して 一般論として語っているところも、聞こえはいいですが「役立つ言葉」というよりは「詩的な名言」にとどまるといっていいと思います。

本質と思える言葉をうまく拾い出して 役立てるべき本です。

2009年4月10日金曜日

武士道―サムライはなぜ、これほど強い精神力をもてたのか?

新渡戸 稲造 著、奈良本 辰也 訳/三笠書房

スタンダードなのだなあと思っていながら 読んだことがなかった。実は「国家の品格」に出てきたのをきっかけに読んだ。(あれは極端で偏りすぎている)訳が新しいので読みやすい。

「序文」1ページ目で、武士道の意義は明瞭簡潔に示されている。新渡戸稲造がベルギーの法学者との会話で受けた一言

「あなたがたの学校では宗教教育がないとは。ではいったいあなた方はどのようにして子孫に 道徳教育を授けるのですか?」

そう、序文で早くも気づかされた武士道の意義とは、「道徳の規範」。 思えば、子供心から確かにあった善悪の区別から始まって、「かっこ悪い」事への共通認識、道義的な壁の前で迷ったときの無意識の道しるべ・・・こういうものすべては、「武士道」に、弱いながらも確かにその残り香を感じる。

今について言えば、合理主義だけで説明できない日本特有の道徳観、価値観。 最近それらが合理的なものに押されて薄れつつある原因は、規範とするに欠点があるからではなく、そのルーツがはっきりしなくて基盤が脆弱だからじゃないだろうか。その基盤こそが、武士道だったのではないか、と感じた。

と、いっても封建社会を目指すとか右寄りになろうとかいうのが趣旨ではない。終盤では新渡戸自身も武士道の衰退を見据えている。それでも「いずこよりか知らねど近き香気」として、形式でない精神の中で生き続ける。

四色問題

ロビン・ウィルソン 著、 茂木 健一郎 訳 /新潮社

四色問題が、証明された今もなお問題と
言われる理由は、読んでみて分かった。
つまり、読んでも証明の全容が分からない。
なぜならその証明の主要部分はコンピュータによるものだから。

でもこの問題がどこか魅力的に感じることには、
そんなエレガントでない証明も手伝っているのかもしれない。
それに「地図職人にははるか昔から経験的に知られていた」ことや、
「今もコンピュータによる証明以外は見つかっていない」
なんてことが、どこか神秘的。

最終的には、へイウッドの予想のg=0の場合に
該当するなんて、そんな拡張も魅力的。

国家の品格

藤原 正彦 著 /新潮社

内を見直すひとつのきっかけになる。日本人が無意識に抱く、欧米諸国との比較に基づいた根拠の不明確な劣等感。それって本当に確かなの? と、日本を見直すための土台を照らしてくれる。

ただし文中で著者自身が指摘を受けたと言っているとおり、半分くらいは著者の誇張や極論、と思ってフィルターを通して見るのがちょうどよいと思う。そうでないと、著者の意図と反してナショナリズムに陥る読者が増える危険性がある。

大切なのは情緒、美への感受性。これには足元を「洗われた」気がする。

科学革命の構造

トーマス・クーン著、中山 茂 訳 /みすず書房

「科学」って、絶対的で普遍的で、
常に不動の価値基準を与える・・・
そんな風に妄信していたのは、子供から大人になる手前まで。
「科学ほど普遍性のないものはない」というのが
この本の要約になると思います。
どんどんなされる発見や偶然の産物によって、
科学の「本質」はどんどん書き直されていく。
間違ったって、いいんだ。そのとき正しいんだから。

NPOという生き方

島田 恒 著 /PHP研究所

NPOに興味があって読んで見た本。
ふと考えてみれば、どんなに技術やサービスを謳う企業も、
営利なくしては続かない世の中。
そんな中で「非営利」を掲げるとは、
どんな団体なんだろう、ということが最初は疑問だった。

でも読み始めると、ここには「団体」として存続することの
真の意味が書かれていることに気づいた。
NPOのみならず、会社、その他団体に対しても
考えを深められる。
特に、日本的な経営とその長所・短所についての記述は、
自分自身の属するさまざまな「団体」の本質について、
再考させられる。

白仏

辻 仁成 著 /文芸春秋

生きることと死ぬことを 本当に興味深く考える本。

介護や、高齢の方と関わる仕事の人、
またそれ以外にも、
普段から高齢の方について
考えたことのある人にとって、
とても思うところの多い本だと思います。

静かな感動がずっと残る。
すごくいい。