2009年4月11日土曜日

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

アンドリュー・パーカー, 渡辺 政隆, 今西 康子 著/草思社

あの大進化が「なぜ」起こったか、について、周到にそろえた証拠を連綿と並べた上で、最後に自説を示している。まさに、もやもやとした状況が最後に「像を結ぶ」ようで面白い!全編にわたって、身近な今昔の証拠からそれの意味するところにしたがって時を遡り、状況証拠をそろえていく、という順序が 守られている。ただし中には、ある物証に対して、著者のストーリーに都合のよい 側面だけを用いて論拠に当てているところも2,3箇所あった。また、状況証拠という性質上免れないのかもしれないが、この説の 有力な論拠自身が自己矛盾あるいは反証となりうる、という側面には 触れていないところが、まだまだ検証の余地のあるところだと思う。 特に回折格子の捕食-被食関係における効果について。こういうまとまった科学読み物は、 著者がストーリーの主導権を(当然)握っているので、敢えて反証や 矛盾に敏感になって読んでみましたが、それでも論理における 致命的な欠陥はないと思える、本当に面白い説だと思います。 著者も窮した、「じゃあ眼はなぜ進化したのか」という問いは、「謎が謎を呼ぶ」という科学の醍醐味なのかもしれない。終盤で明らかにされる説を読むと、いくつかの関連する事例が頭をよぎります。それは、「人工衛星の軍事における意味」とか、宗教的な解釈ではないですが、「知恵の実がアダムとイヴに与えた影響」です。あと、個人的には「色彩は脳内以外の外界には存在しない」というのが、改めて興味深かった。これは、まったく意外なところで、ソーシャルワーカーにも役立つのではないか、と思える。