キャッチャー・イン・ザ・ライ
J.D.サリンジャー 著, 村上 春樹 訳/白水社
訳者としての村上春樹は好きだ。向こうの感性へのより良い梯子を差し出してくれる。といっても、思春期の感性には、分かりすぎるほど分かってしまうトゲみたいなものが突き出ていて、客観的に他人事で読めないというのが実のところ。昔、こういう子が他のクラスにいた。 鋭く、繊細で、面白い。言葉の端々に「おかしみ」があふれて出していてまさにその言動に皆が群れるような。その繊細さゆえに少し悪そうにしているのだと、根拠もなく感じ取れた。きっと、喜ぶ周囲の反応に、全面の呼応をするのが彼の本姓にふさわしいのだ。ホールデンが無条件に愛する妹への言葉もまた 無防備なほどにまっすぐだ。 エピソードを追体験したような 読書だった。