2009年4月11日土曜日

農林水産業の多面的機能

農林統計協会
いわゆる多面的機能というものについて解説している。有形無形の価値、経済的/文化的価値など、概念的な言葉にはあふれている。
この本は政治的な本であると認識すべきだ。農林水産大臣への学術会議の答申であるこの本は、多面的機能についてカテゴライズし、一般化している。これには、この一般化後になされるであろう 各農山漁村への固有の価値の抽出に指針としようという 意図があるのだろう。

しかし、ややあいまいな点がある。まず、森林の多面的機能において、「森林は自然環境の構成要素であり、森林生態系の活動に伴う 二酸化炭素の吸収と放出が炭素循環を通して地球規模の自然環境を調節する」という記述。これは、その内容では直接地球環境の調節には結びつかないという点で詭弁だ。厳密には、現存する森林は二酸化炭素の吸収源ではないからだ。生育段階にある森林のみが、吸収源となりうる。いま巷に流行っている、こういう言い回し、「森林は二酸化炭素を吸って酸素を出すので、温暖化を防止し、酸素を供給している」これは正確ではない。厳密には、これから植林するなら、そう言えるということだ。現存する生育済みの森林は昼間は光合成するが、夜は呼吸する。さらに昼間の光合成による酸素は、その森林が育む生態系によって ほとんど消費される。よって、自己目的的な炭素循環をもって、地球環境の調節機能を論ずるのは誤りだ。蒸発散等による気温の調節効果と言えばよいが。
森林が地球の酸素供給源になっている科学的根拠は 見つかっていない、という事実を、識者も研究者も、明言すべきだ。 分からないことを、未解明と言う明瞭さを 科学者は基本とすべき。

次に、農村と漁村が分けられて 論じられているためか、森林が海洋に供給する栄養であるフルボ酸鉄に関して、その名前すら出てこない。 農山村側とお見合い状態だったのか、はたまた農山村に広葉樹を想定できないから何も言えなかったのか、ただただもったいない。縦割り行政を学術会までもが踏襲してしまった負の慣例と見るべきなのだろうか。

科学が、科学でないものに身を委ねてしまっているという印象を受ける。これを元に農山村活性化という重要課題への対策が論じられることに、多少の疑問を持つ。