武士道―サムライはなぜ、これほど強い精神力をもてたのか?
新渡戸 稲造 著、奈良本 辰也 訳/三笠書房
スタンダードなのだなあと思っていながら 読んだことがなかった。実は「国家の品格」に出てきたのをきっかけに読んだ。(あれは極端で偏りすぎている)訳が新しいので読みやすい。
「序文」1ページ目で、武士道の意義は明瞭簡潔に示されている。新渡戸稲造がベルギーの法学者との会話で受けた一言
「あなたがたの学校では宗教教育がないとは。ではいったいあなた方はどのようにして子孫に 道徳教育を授けるのですか?」
そう、序文で早くも気づかされた武士道の意義とは、「道徳の規範」。 思えば、子供心から確かにあった善悪の区別から始まって、「かっこ悪い」事への共通認識、道義的な壁の前で迷ったときの無意識の道しるべ・・・こういうものすべては、「武士道」に、弱いながらも確かにその残り香を感じる。
今について言えば、合理主義だけで説明できない日本特有の道徳観、価値観。 最近それらが合理的なものに押されて薄れつつある原因は、規範とするに欠点があるからではなく、そのルーツがはっきりしなくて基盤が脆弱だからじゃないだろうか。その基盤こそが、武士道だったのではないか、と感じた。
と、いっても封建社会を目指すとか右寄りになろうとかいうのが趣旨ではない。終盤では新渡戸自身も武士道の衰退を見据えている。それでも「いずこよりか知らねど近き香気」として、形式でない精神の中で生き続ける。