2009年4月11日土曜日

ブータンに魅せられて

今枝 由郎 著/岩波書店
GNH=国民総幸福 この概念で世界から注目されるブータン。
この概念は早くも1976年には謳われたらしい。本書の6割くらいは、著者がブータンでの10年の生活で感じたブータンの人々の気質、生活の雰囲気についての記述。興味深かったGNHについては最後の方に出てくる。
読む前の期待感では、ブータンはGNHについて、どんな知恵を使って国の制度に落とし込んでいるのだろう、というものがあった。本文の記述によると、そういう制度的なものではなく、 ブータン国王もこう述べているらしい。
「『幸福感』とは非常に主観的なもので、個人差があるため、 国の方針とはなりえない。正確に言うなら、国民一人ひとりの『充足』である。充足感を持てることが人間にとって最も大切である」
つまり、具体的な手法で国全体の進捗を評価するGDP のような明確な体系はもたない。本書ではより推し進めて、その方針とは以下のような問いを発し続けることだ、と述べている。
(あらゆる行為、活動に際して)「それがあなたが人間的であることに対して どういう関係があるか?(寄与するか?)」

感想として、GNHという制度があることへの期待感がいい形で裏切られたことが、興味深かった。科学技術や経済原理は、いうなれば誰しもに通じる共通言語だ、と思っていてそれは正しいと今でも思うが、唯一のものではないということに気付かされた。

他に面白いのは、ブータン通産省の会議において、国外への 輸出品目を検討した際、ある官僚から「ブータンが誇る”良質の時間”はどうか」という提案があったということ。言葉尻だけからの厳密性は保留しておいて、こういう発想が出てくることは非常に面白い。また、水源涵養林としての森林の意義を「電力施設としての森林」と早期に捉え、国の7割が失われる前にその価値を明確化したところは、先走って失敗した先進国に学んだ賢い例である。また、近年近代化が進みつつあるブータンの、途中をすっ飛ばして一気に携帯電話普及、とか、衛星電話普及、とかいう潔さには、賢明さを感じます。