2009年7月6日月曜日

知っているようで知らない 法則のトリセツ

水野 俊哉 著/徳間書店
人間社会において、根底に流れている定理のようなもの。それは決して、根拠のあいまいな精神論ではない、認知科学的な視点での知恵や法則。それらをふんだんに紹介している。 これは、考える際の知恵である「フレームワーク」とは別の、日々を送る「姿勢」のようなものだと思う。

◆好意の互恵性・・・ミラーニューロン。間主観性がキー。そこでは、日本に特有な「空気」感が説明できるかもしれない。
◆コミットメントと一貫性・・・これは後輩の教育に即応用できるばかりか、上司を評価する切り口にもなる。
◆役割を与えることと重要性・・・これは、下位のものへの対処のみならず、上位者についても言える。子供のような大人は、大人を演じてもらうよう手配すれば皆大人になるのだ。
◆「ジョハリの窓」・・・相手自身には見えない部分を明示してあげることの有効性
◆年をとったときの頭のよさとは ・・・つながりを見出す力
◆自分の背景にある思い込み「ビリーフ」を明らかにし、対処する

などなど。盛りだくさんで、辞書のように使えると思う。
もしかすると、聖書は、こういうルールが物語として編みこまれたものなのかもしれない。

地頭力を鍛える 問題解決に活かす「フェルミ推定」

細谷 功/東洋経済新報社

賢さ・・・

身に着けたいけれど、賢さにもいろいろある。本書では、今後求められる賢さとはどのようなものなのか、そして、それにはどうすればよいのかについて、具体的に述べている。

賢さには大まかに3つの方向性があって、それぞれ直行した軸として独立に考えることができる。

 x軸:地頭力

 y軸:対人感性力

 z軸:知識・記憶力

従来の賢さは、z軸だった。しかし今や、インターネットの登場により、z軸の賢さは誰でも手にしうるものに陳腐化した。そこで重要なのが、x軸。これが本書の核となる賢さだ。

地頭力の賢さとは、例えば、

・とっつきのないと思える問題を解く、「フェルミ推定」や、

・目的からブレイクダウンする考え方、(言い換えればバックキャスティング)、

・手段の目的化という陥りやすい誤りへの警告と、そうならないためのポイント

・本質をつかんでいれば、要するにそれは何なのかは30秒で説明できる

・仮説を立てる際は、芸術家的な奔放さで


などなど、「フレーム」といわれるものや考え方の型みたいなもの、つまり先人たちの「考える知恵」を駆使することだ。演繹的思考と帰納的思考の使い分け、組み合わせについても述べており、どうやらこの「アブダクション」というのは、近年の、思考における一貫した「知恵」の道具であるらしい。


最後には、「x軸で考えて、y軸で行動する」ことを勧めている。これは、こと人的ネットワークの重要な現代においては、必然ともいえる。

2009年6月17日水曜日

そうだ、葉っぱを売ろう! 過疎の町、どん底からの再生

横石 知二 著/ソフトバンククリエイティブ

「仕組みに組み込むことが大事だよ」

横石さんのよく言われる言葉だ。 葉っぱという何でもないものに目をつけて、それこそが価値ある地域資源だと認識して”売り”とし、地域の経済効果と同時に高齢者の有効活用を実現し、最終的には地域に”誇り”を取り戻した、希少な成功例。

横石さんの言葉には、短いながら含蓄がある。仕組みについても同様で、それは「環境というのはそれだけをやろうとしてもだめだ」、という言葉にも通じている。


また、任天堂の社長とも懇意で、社長とよく話が合うということが示しているとおり、この「上勝町の葉っぱビジネス」は、紛れもなくブルーオーシャン戦略の適用・成功事例だ。シルク・ドゥ・ソレイユにも代表されるブルーオーシャン戦略の描く戦略キャンパスを、おそらくは気づかないうちに実現してきた、そういう例なのだと思う。

仕組みに組み込むこと。これがミソだと思う。

日本の未来をつくる―地方分権のグランドデザイン

NPO法人日本の未来をつくる会 編/文藝春秋

日本のグランドデザイン、いわゆる道州制に関して、様々な議論を提示している本。

この本は、ある建築家が中心となって、他のさまざまな分野の識者たちがそれぞれの見地から国のあるべき姿を展望している。

巻頭から前半しばらくにわたっては、これまでの日本の発展の経緯と、その要所、そして現在へとつながる経路の中で、どこでおかしくなってどんな問題が生じているのかを俯瞰的に整理している。

こういう整理はとても解りやすい。例えば、現在の問題構造を端的に表す、

・「国(の出先機関)と県の2重行政状態」や、

・「地方は都市(中央)に人的資源を供給し、都市(中央)はその見返りに地方に交付税等の財政的補填を施してきた」

など。前者は、今話題の直轄負担金問題につながり、まさに日の目を見ている話でもある。また県(県庁)の存在意義について 取りざたされている実情にも言及するものである。後者は、まさに現在の構造そのもの。

ただ、提唱者たる建築家の論説部では、建築上のある概念のみを重用して、それが普遍的に国家論に応用できることを唱えているが、なぜその概念を適用するのかについて必然性がない。類似性からそうしているというのであれば、建築分野に限らずとも他によいアナロジーはいくらでもある。加えて、国には”入れ物”としての見方以外に目に見えない「経営」という切り口もあるのだから、建築至上で何でも片付けるといのは視野が狭く、粗雑に論じている感がある。

ただ、国土のグランドデザインというのは、やはり今後必要だ。それも近い将来に実現するような具体的な国土像が望まれている。

そうした中で、一線の識者が、国土のグランドデザインについて杖先を示したのは、よいことだと思う。今後も、国の要職にある人たちは、大きな、長い目で国の仕組みの方向性を指し示してほしい。

それが仕事だろ。

2009年5月26日火曜日

デザインを科学する 人はなぜその色や形に惹かれるのか?

ポーポー・ポロダクション/ソフトバンククリエイティブ

デザインとは何だろう。

なくてもいいが、あると生活がとても豊かになるもの。ちょうど、音楽のように。時には、意識を触発して、行動のきっかけにもなりうるもの。
・・・だと思う。
この本には、そうした、デザインにより意識に生じる傾向や、ある業界には知られている経験則、よいデザインのコツや、積極的利用法までがぎゅっと詰まっている。

なお、人間がデザインに対してなぜそのように反応するかは、脳科学的に謎が多く、ほとんど解っていないらしい。そういう意味では、この本は視覚刺激の体系的なリアクション全集、といったところだ。

本書を読んでの応用先は、毎朝のネクタイの色の選択から、戦略的に顧客を消費行動に駆り立てるための技までと、本当に幅広い。

 自分の意思を効果的に伝えるには?
 よい印象で伝えるには?
 それをより長く記憶に残すには?

デザインは、
人間が何を見ているのか、ということの鏡だと言える。

コンサルタントの習慣術 頭を鍛える「仕組み」をつくれ

野口 吉昭 著/朝日新聞出版

日々自分に投資となるような、よい習慣をもちたい。
では、習慣化する、持続的にするには・・・
そういった、良い「仕組み」を作るということの有意義さと、
様々な局面ごとの実践法について、著者の経験を交えて述べている。
例えば、ごくシンプルな原理、「楽しくなければ続かない」をもとに、やっていて面白い、と思えるための方法や、それに関するモデル化と応用が紹介されている。
「百段階段」のモデルは、本当に何にでも応用可能。ここらへんの記述は、フロー理論につながっていると思う。

考える習慣 の部分では、たとえば「論理的指向の末のコンセプト思考」。これは、池上彰氏の言うところの、「帰納的に情報収集し、緩やかな演繹性でまとめる」や、系統樹的思考(アブダクション)に通じる。

耐久力を強める 仕組みとして、「自分を支えてくれる人物やチームに気づく、作ること」も、僕は明確に意識し始めた。

そしてリーダーに関する2つの力
 ・ビジョン力
 ・マネジメント力。
この2つで周囲の人々を評価してみると、ずばり的確にチームのリーダーについての問題点をより建設的で具体的な要求事項としてあげることができるようになる。時としてそれはもっとドラスティックに、適切な場を探す動機付けになるかもしれないし、近未来の自分のために刻む言葉になるかもしれない。そういう、自己改善につながる仕組みとも言えるかもしれない。


仕組みに組み込んでしまって自然に回るようにすることの重要性については、「はっぱビジネス」の横石知二さんも言っている。仕組みというものを、広範かつ遍在可能なものと考えて、取り入れるチャンスになる本。

2009年5月23日土曜日

メールは1分で返しなさい

神垣 あゆみ 著/フォレスト出版

表題どおり。
ただ、それだけでなく、実は体系的に語られることの少ない、メールにおける適切なルール、礼儀が数多くまとめられている。
その意味で、 早さにフォーカスしたタイトルは、内容の価値を やや表しきれていないかもしれない。

返信の早さ。なぜそこまで返信の早さにこだわるかといえば、受け手の身になってみれば分かる。
先輩でも、即時に返すことを徹底している人がいる。確かに、それを習慣とすると、とても評判が良くなる。信頼度も増す。


個人個人の自由度が増してくる近年のパソコン利用が、ある面では、迷信的な個人個人の”癖”の派生をも許してしまう。
例えば、会社でチームのトップを努める中年社員がいった事に びっくりしたのだけれど、 僕が客先へメールを出した際、 文章をセンテンスや内容のまとまりによって適宜改行したり、 時にはまとまりごとに小見出しをつけたり、箇条書きをしていた のを見て、
「なぜ、恣意的に改行する?そんなのはこうやって 自動折り返しにするんだよ。」 と、得意げにOUT LOOKの自動折り返し表示をして見せた。
メールの通数で言えばはるかに僕よりも書いているはずだけれど、適切なマナーは、数をこなせば身につくものではないということだ。こういう恥ずかしい事を堂々と言ってしまうと、致命的だ。

ちなみに、この本でもかなり始めのほうで、
「1行の文字数は、自動設定の折り返しに頼らず、意味の切れ目のよいところで改行しましょう」
と書かれている。当然、世間ではこれが常識。まあ、読み手になって素直に考えれば分かることだと思う。

たいていのルールや礼儀は、相手のことを考えれば大きく外れることはないけれど、基礎の基礎で評判を落とさないように、 押さえておくのがベターだと思う。

2009年5月21日木曜日

限界集落と地域再生

大野 晃 著/Kochi Shinbun

著者である大野晃先生は「限界集落」という概念を提唱した。
提唱されたのはずっと前だけれど、
近年改めて、中山間地域の問題の全体像を整理している本。
限界集落という概念・定義、実情が明快に示されていて基本を押さえるのによい本。

この本が良いと思う理由として、
「なぜ集落の消滅はいけないのか」
「なぜ過疎は問題なのか」という疑問に対して、明快に回答している点。その回答は、「多面的機能」といったあいまいな逃げ口上でなく、ずばりシンプル。

そのように問題に対する明快な理由が述べられているからこそ、次なる「流域一体としての管理、組織連携」という組織のあり方が有機的な議論として出てくる。

現場で生の情報を得る研究スタイルを大事にしている点でも、とても説得力がある。

問題とその先を見据える真っ直ぐな視点を持った、
”中長期的な新聞”という感じ。

環境倫理―価値のはざまの技術者たち

A.S. ガン, P.A. ヴェジリンド 著、古谷 圭一 訳/内田老鶴圃

環境倫理。

 環境に適用する倫理。

 環境にも倫理観をもって接したら・・・ という、提起。

環境に対しても、人に対すると同じく倫理観を持とう、 というのは、ちょうど、 個人への権利付与に対応して それと同様に無視できなくなってきた団体という存在(主体)に、 社会の中で輪郭を与える法人格とも似ている。 つまり法やルールの拡張。

まったく新しい軸を持とうよ!という提起は、読んでいてワクワクする。

加えて、この本がいいなあと思うのは、 最後に訳者が、著者の考えに対して、 やや首をかしげているところ。 ここら辺、新しい価値観の軸を妄信的に受け入れるのではなく、 日本的な価値観に照らして適切か、と省みているあたり、 健全だと思う。

たしかに、訳者に触発されて見方を変えてみると、 例えば、本文中の事例でとりあげられている裁判のように 欧米ではキリスト教でいう隣人愛の延長として 野生生物への自己投影(同情)というルートが できやすい風潮があるようだけれど、 こういう価値観を環境倫理のスタンダードとするには、議論が必要だと思う。

おそらくそういった意味合いもこめてか、 訳者の「日本的な価値観」に関する言及がちらほら見られる。 そこに、新しい方向の可能性があるのかもしれない。

価値観についても、多様性は自己保存に優位に働くということか。

末尾近くの言葉、「変化しつつある世界において伝統的な倫理が 環境倫理を扱うには不適当なのかもしれない・・・」 という考えが、近年の社会問題を扱う上での土台かもしれない。 そういう意味では、科学におけるパラダイムの転換と よく似ている。

2009年4月11日土曜日

農協の大罪

山下一仁 著/宝島社
農協、農水族議員、農水省のトライアングル=政治構造を挙げ、本来は農業振興目的であるはずの組織や仕組みが 自己目的的であると明確に指摘している。
現在の日本の農政が、専業ではなく兼業農家のための、しかも農業とそれに従事する人ではなく「農家戸数」を確保することを至上としており、『農協は金融機関である』という明確な指摘は、「農協ってどういう組織なんだろう」と素朴に思ったことのある人に、本質を伝えると思う。

すばらしい的確な指摘だと思ったのは、「農業のいわゆる”多面的機能”が経済学で言うところの”外部経済”にあたるというのであれば、それは市場原理による価格とは 別の原理である財政負担でまかなうべき」というところ。
農林水産業の多面的価値については、いろいろなところで語られているその説明を一つずつ見ていくと、突っ込みどころが満載である(ほとんどが自己目的的)ことを、この一文が総括している。

まち歩きが観光を変える―長崎さるく博プロデューサー・ノート

茶谷 幸治 著/学芸出版社
長崎の町をさるく(ぶらぶら歩く、ほっつき歩く)という観光の仕組み。
この町歩きは、どのコースにも物語が伴っていて、しかも地元の人の人生が入り込んでいるので、その物語は血の通った疑似体験にように記憶に残る。

この本を読むと、”さるく”立ち上げからその一つの極大期である「さるく博」までの経緯が、本当に一連のドラマだったことが分かる。

「人に歴史あり」ということと似ていて、物語こそがそこにある、それが価値なのだ、と思った。

科学者の9割は地球温暖化CO2犯人説はウソだと知っている

丸山茂徳 著/宝島社

現在大勢を占める科学的知見と反して、寒冷化を主張している。この本は、結局何がいいたいかというと、

・温暖化は科学者にとって自己目的的な詭弁だ

・環境問題の本質は人口問題だ

簡単に言ってしまえば、いろいろな分野が細分化して相互の交流が難しくなり、そのため、こと科学においては諸分野が自己目的的な、保身のために、詭弁を正当化しようとする動きがある。温暖化論はそれに過ぎない、ということが本論なのだろう。でも、いまや相互に交流ができないと自ら言及している他分野を あえていとも簡単に縦横無尽にかいつまんで、「石油の無駄遣いだから、地方地域や個々の人家は 地方都市の主要駅の駅前にピラミッド型集合住宅を 建てて住むのがよい」とか、「太平洋戦争は母親が起こした」 という説明は、多くの人にとって受け入れがたいと思う。 また、話の展開も、

温暖化ではなく寒冷化↓

寒冷化すると、石油の枯渇が問題↓

そもそも石油の枯渇は・・・↓

人口問題↓

そもそもの原因は国家論

というもので、論理が飛躍しすぎている。そして、肝心の「寒冷化」に対する対策は書かれていない。おそらく、これまでの対症療法的な対策への 反省もこめて、このような「そもそも論」を展開しているのだろうけれど、上記のような展開では飛躍しすぎているので納得しがたく、説得力が感じられない。

でも、「農業形態のグランドデザイン」や、人口に関する長期的展望と対策は確かに必要だと思う。だったら、科学者の見地から寒冷化に対する対策と、必要となる他分野での対策への協力要請、という形で提示してほしい。科学者として真剣に寒冷化を主張するならば。

[非公認] Googleの入社試験

徳間書店

試験官が何を求めているのか、それが重要となる。

スキル的には数学や物理、Web、プログラミングの知識、基本として大事なのがGoogleの理念、そして欠かせない独創性。

いろいろな立場の回答例も載っていて、どれも考え方が面白い。いい刺激になります。

最後の授業 ぼくの命があるうちに

ランディ パウシュ, ジェフリー ザスロー 著/ランダムハウス講談社
著者は先月亡くなった。
海外の格言の中には、日本ではズバリ言い当てられていないような、 シンプルに本質を突くものがある。 たとえば本書の、「部屋に象がいたら、まず象を紹介しなさい」など。
特にこの本はタイトルどおり最後の授業なので、良質のそれらがちりばめられている。

「なぜ生きる」という問いがあるとしたらこれから長くは生きられない人こそがそれに近づく説得力ある話をしてくれる、と感じた。

ブータンに魅せられて

今枝 由郎 著/岩波書店
GNH=国民総幸福 この概念で世界から注目されるブータン。
この概念は早くも1976年には謳われたらしい。本書の6割くらいは、著者がブータンでの10年の生活で感じたブータンの人々の気質、生活の雰囲気についての記述。興味深かったGNHについては最後の方に出てくる。
読む前の期待感では、ブータンはGNHについて、どんな知恵を使って国の制度に落とし込んでいるのだろう、というものがあった。本文の記述によると、そういう制度的なものではなく、 ブータン国王もこう述べているらしい。
「『幸福感』とは非常に主観的なもので、個人差があるため、 国の方針とはなりえない。正確に言うなら、国民一人ひとりの『充足』である。充足感を持てることが人間にとって最も大切である」
つまり、具体的な手法で国全体の進捗を評価するGDP のような明確な体系はもたない。本書ではより推し進めて、その方針とは以下のような問いを発し続けることだ、と述べている。
(あらゆる行為、活動に際して)「それがあなたが人間的であることに対して どういう関係があるか?(寄与するか?)」

感想として、GNHという制度があることへの期待感がいい形で裏切られたことが、興味深かった。科学技術や経済原理は、いうなれば誰しもに通じる共通言語だ、と思っていてそれは正しいと今でも思うが、唯一のものではないということに気付かされた。

他に面白いのは、ブータン通産省の会議において、国外への 輸出品目を検討した際、ある官僚から「ブータンが誇る”良質の時間”はどうか」という提案があったということ。言葉尻だけからの厳密性は保留しておいて、こういう発想が出てくることは非常に面白い。また、水源涵養林としての森林の意義を「電力施設としての森林」と早期に捉え、国の7割が失われる前にその価値を明確化したところは、先走って失敗した先進国に学んだ賢い例である。また、近年近代化が進みつつあるブータンの、途中をすっ飛ばして一気に携帯電話普及、とか、衛星電話普及、とかいう潔さには、賢明さを感じます。

農林水産業の多面的機能

農林統計協会
いわゆる多面的機能というものについて解説している。有形無形の価値、経済的/文化的価値など、概念的な言葉にはあふれている。
この本は政治的な本であると認識すべきだ。農林水産大臣への学術会議の答申であるこの本は、多面的機能についてカテゴライズし、一般化している。これには、この一般化後になされるであろう 各農山漁村への固有の価値の抽出に指針としようという 意図があるのだろう。

しかし、ややあいまいな点がある。まず、森林の多面的機能において、「森林は自然環境の構成要素であり、森林生態系の活動に伴う 二酸化炭素の吸収と放出が炭素循環を通して地球規模の自然環境を調節する」という記述。これは、その内容では直接地球環境の調節には結びつかないという点で詭弁だ。厳密には、現存する森林は二酸化炭素の吸収源ではないからだ。生育段階にある森林のみが、吸収源となりうる。いま巷に流行っている、こういう言い回し、「森林は二酸化炭素を吸って酸素を出すので、温暖化を防止し、酸素を供給している」これは正確ではない。厳密には、これから植林するなら、そう言えるということだ。現存する生育済みの森林は昼間は光合成するが、夜は呼吸する。さらに昼間の光合成による酸素は、その森林が育む生態系によって ほとんど消費される。よって、自己目的的な炭素循環をもって、地球環境の調節機能を論ずるのは誤りだ。蒸発散等による気温の調節効果と言えばよいが。
森林が地球の酸素供給源になっている科学的根拠は 見つかっていない、という事実を、識者も研究者も、明言すべきだ。 分からないことを、未解明と言う明瞭さを 科学者は基本とすべき。

次に、農村と漁村が分けられて 論じられているためか、森林が海洋に供給する栄養であるフルボ酸鉄に関して、その名前すら出てこない。 農山村側とお見合い状態だったのか、はたまた農山村に広葉樹を想定できないから何も言えなかったのか、ただただもったいない。縦割り行政を学術会までもが踏襲してしまった負の慣例と見るべきなのだろうか。

科学が、科学でないものに身を委ねてしまっているという印象を受ける。これを元に農山村活性化という重要課題への対策が論じられることに、多少の疑問を持つ。

フロー体験 喜びの現象学

M. チクセントミハイ, Mihaly Csikszentmihalyi 著, 今村 浩明 訳/世界思想社
楽しい、とは何か?そのような状態はなぜ起こるのか?さらにその先は?本質は?
いやあ、面白かった!

・達成する能力を必要とする明確な課題に注意を集中して
 いる時、人は最高の気分を味わう。
・意識の統制が 生活の質を決定する。
・心的無秩序状態(高エントロピー)に際して、
 自分の注意力を注ぐことで秩序を作り出す。

マラソンランナーを待っているのは長く苦しい42.195kmだけか?

敦煌の莫高窟の仏像を彫り壁画を描いた僧たちはその地道な作業を嫌々やっていたか?

皆が認める苦しいことに集中する人は、苦しさを追い求めているのか?

否。


さらに、個々のフロー活動を、有機的に全人生に結びつけることへと展開する。「意味」というやつ。
マズローの欲求の五階層理論をより包括的に取り込む。
知恵の果実をもぎ取った以上は、複雑さはいわば目指される方向である。
これは意識の演繹的なブラウン運動の軌跡とも言えるかもしれない。
差異化から統合へ。
その全人的知恵は、まさにこれから生まれると思う。

これは、本当にすごい本です。

脳が冴える15の習慣―記憶・集中・思考力を高める

築山 節 著/日本放送出版協会
「フリーズする脳」の著者による、脳機能活性化のための紹介。自分がまずどのレベルにいるか、セルフチェックするところから始まる。重症の人は最初から。
・試験を受けている状態を1日何回作れるか。
・アナロジーを使える人は脳をよく使っている
・社会的役割のバランス 心身ともに健全さを保つのに良。

あなたはコンピュータを理解していますか? 10年後、20年後まで必ず役立つ根っこの部分がきっちりわかる!

梅津 信幸 著/ソフトバンク クリエイティブ
コンピュータについて、身近な比喩を用いてその基本となるデータ、プログラム、それらの振る舞いについて、親しみやすく説明している。

親しみやすい、というのは、理解しやすい、とは違う。本書は親しみやすい比喩ではあるが、コンピュータの構造の理解に直結するものではない。巻末で著者も述べているとおり、本書は「好奇心の泉を掘り当てる」ということに 徹しているようだ。
コンピュータそのものの理解、というより、コンピュータと人間の関係について考える きっかけを読者に与える効果がある。たとえば、コンピュータについての以下のような記述、「偉大なるデフレ要因」「娯楽や芸術、教養と同じ、新しい価値を生み出して生き残る」などからは、本分野の只中にいる著者らしく業界の今後を憂える、暗中模索の心中が読み取れる。

アナロジーの枝葉が多すぎて、本質が見えにくくなっているというのも、理解に結びつきにくい要因の一つ。

人を動かす 新装版

デール カーネギー, Dale Carnegie 著, 山口 博 訳/創元社
誠実であれ。
相手の立場に身をおけ。
行動は習慣をつくり、習慣は人格を作る。

思考の整理学

外山 滋比古 著/筑摩書房
うんうん、そうそう!まさにそのとおり!バスの中で読んでいて、もう、うなづける事だらけだった。やはり人間は、自分たちは何をどう考えているかということを もっとしっかり問うべきだ。そうすれば、もっと世界が見えてくるはず。

「サービス」の常識

武田 哲男 著/PHP研究所
なるほど、という考え方に出会える。顧客は商品のみを購入するのではなく、「満足」さらには「感動」(喜び)を買うのだ。同じものでも価格が違うものの実態を顧客は知っている。それがなぜ価格が違うのかを知っている。つまり、なぜか価格が違うのかを明示できれば、それはビジネスになる。(いうなればサービスと価格におけるニッチ) 顧客”不満足度”調査は大変有効。”高級”と”一流”の違い 自分を省みることができる。

大人の投資入門―真剣に将来を考える人だけに教える「自力年金運用法」

北村 慶 著/PHP研究所

日本の年金基金を運営している政府年金投資ファンド(GPIF)。すごいよ、GPIF。

グリーンピアの怠慢経営を含む過去の 累積赤字4兆円を超える16兆円の利益をひそかに上げていた。この点において、筆者の言うように、マスコミは叩きやすく分かりやすいグリーンピアのことのみならず、こうしたGPIFの超安全運転といわれるアセットアロケーションに基づく基金運営の 良いところも報道すべきだ。そうでなければ、いたずらに年金不信を招く一方である。マスコミのCSRが問われる。

…と、GPIFに尊敬の念すら覚えた矢先、今朝のNHKニュースで、また累積赤字になったそうで。まあ、「超長期」の運用ですから、長い目で見ますよ。理論に基づくプロの堅調な運営を信じる。

私的運用に関して、 この本はGPIFのアセットアロケーションを一つのモデルとして、分かりやすく解説する。

「投資」…とっつきにくかったけど、知ってしまえば面白い!短期的なトレーディングによるギャンブル的 マネーゲームではなく、「並み程度の」のリターンを期待できる、ポートフォリオ理論にもとづくインデックス投資。

キーワードは、「成長する経済全体に投資する」。だから長期的にリターンがあるのは当然なのだ。アメリカ3%、日本2%のGDP成長率、つまりは自分たちの成長性を省み、同時に投資すべきなのだ。

投資、面白い!

生物と無生物のあいだ

福岡 伸一 著/講談社

生命の定義は何か?

生物が原子に比べてこれほど大きなサイズなのはどんな意義があるか?

生命活動はエントロピーを・・・

そして秩序を維持するには機構自体を流れの中におく。結果的にその機構は増大するエントロピーを系外に排出している。

科学書でありながら、叙情的。アメリカの科学書のスタイルをとっているのかもしれない。研究主体は人間であるということ、 科学と人間の距離に関して敏感なセンスを持つ、面白い本だ。

プロフェッショナル進化論 「個人シンクタンク」の時代が始まる

田坂 広志 著/PHP研究所
おそらく筆者の経験から得た 数々のフレーズ、本質の片鱗がちりばめられている。その文字通り、やや散文的。
ネット環境が個人として持てるシンクタンク機能を 結び、プロフェッショナル同士のかかわりで 仕事がなされることを助長する。その中で、コミュニティに求められるもの、一人ひとりのプロフェッショナルに省みられるべき資質、テーマとメソッドの両面からの展開の可能性、など、今と直結した今後をより具体的に予期させる概念、考えが分かりやすく書かれている。
「恐ろしいのは、下位者には上位者の力量が分からないと言うことだ」これはいつでも心していなければ。

はじめての経済学

伊藤 元重 著/日本経済新聞社
とっつきにくい経済学。でもそれをきちんと説明してくれる。非常に面白い。実学とまでは行かないかもしれないが、生活するうえで知っておいたら絶対役立つ 社会の要。流れる財のルール。どのような原理が働いているのか、どのような関係、機能がどこにどのようにあるのか、 そしてそれらによって現在の社会がどのように動いているのか。この読後、ニュースを聞けば、 寡占の動きへの危機感、日本という国の比較優位(いわば産業のポートフォリオ)が 何なのか、そして理想状態と言われる「ナッシュ均衡」も興味深い。 面白い。

日本人のしきたり―正月行事、豆まき、大安吉日、厄年…に込められた知恵と心

飯倉 晴武 著/青春出版社

土用の丑の日にウナギを食べるのは、江戸時代の蘭学者、平賀源内がウナギ屋の宣伝策の 一環として広めた。アミダくじのアミダとは、かつては阿弥陀如来の後光のように、放射状にくじを書いていたから。盆踊りの原型は、鎌倉時代に一遍上人の広めた念仏踊りと先祖供養が結びついたもの。その代表が、列を組んで踊る阿波踊り。

系統樹思考の世界

三中 信宏 著/講談社

帰納-演繹のジレンマに陥らない。要は「どうすればいいか」、「そうすればどうなるか」。

僕も大学時代に悩んだ、「ああ、この学問は明らかに言えることなど何も無いじゃないか!」ということと、その解決策として考え付いた方法。それとほぼ同じことを難しい言葉で書いている。

後半は、つれづれなるままに書いていて、他人のためにはならない。著者の備忘録でしかない。

グレート・ギャツビー

スコット・フィッツジェラルド 著, 村上 春樹 訳/中央公論新社

青春、絢爛、純情、激情、憎悪、終焉

中性な主人公を通して語られる人々が、鮮やかに人格付けされていて、多彩。

訳者としての村上春樹はやっぱり好きだ。

若きエンジニアへの手紙―「実験」とは何か、「研究開発」の現場とは

菊池 誠 著/工学図書

失敗が伴い、困難そうに思えることに取り組むときに 助けになる先人の言葉。トランジスタの開発初期の、半導体の表面物理学や化合物の合成の地道な試行錯誤が、今を支える土台となった。 そこで得られた尊い教訓の数々;

・創造的な失敗の方法 ・矛盾が出たら徹底してこだわれ

・感動の伴わない学習は身につかない

・普段の生活上の問題に関する科学的な意識

電子工学のみならず、 新しい局面を迎えるすべての分野に共通する。どの世界にも、壁にぶつかった若造に方向をほのめかし、引き上げてくれる老獪な手が少ないながらいてくれるということを 思い出させてくれる本です。

伝える力

池上 彰 著/PHP研究所
「イメージが湧き易い言葉を使っているか」普段何気なく心掛けていることをもっと明確に分かりやすく目の前に提示される、そんな感じの内容。メールの書き方1つにしても、読んで分かりやすい作文力を身に着けるのとそうでないのとでは、雲泥の差。これを読んだ後は、いろいろな資料や文章を読むたびに、「ああ、これは咀嚼しやすく洗練されている」とか、「ああ、相手の事考えてないなあ」というのが手に取るように分かって面白い。
あなたの本はもっと読みます、池上さん。

ニュースの読み方使い方

池上 彰 著/新潮社

伝える、教えることに興味がある人にとって指南となるありがたい本。4時間で読み通してしまう消化の良い良書。「子供にでも分かるように伝えるにはどうすべきか」を基軸にして、情報の収集・発信のこつを伝える。新聞やニュースの「癖」やその読み方などは 他に誰も教えてくれなかっただろう。本書でも表れている説明の姿勢はシンプル。「分かりやすく!」池上さんと同じ「職能」の人がいるとすれば、米村でんじろう先生だろう。多少お金がかかってもいいから好きなだけ 本を読んでいいという池上さんの考えに、 どこかほっとした。教えることは素晴らしいことだ。

ついていきます、師匠!

脳とクオリア―なぜ脳に心が生まれるのか

社茂木 健一郎 著/日経サイエンス
対象にすべき事物の前に立ちはだかるのは、すべてこのことでないか。脳が感じたときの質感「クオリア」について、その紹介と関係する周辺理論について、仮説を交えて紹介している。認識とは?意識とは? 考えるとは?理解するとは?まるで高みに近づくために次々に前提を掘り下げて どんどん地下に下がっていくような 読み物。
1冊で分かることは、クオリアを扱うことが、おそらく「理解」の本質に近づく 蓋然性が高いであろう事と、その深淵さ。足元をどんどん深堀りしてもまだ岩盤に到達しない。人文科学と自然科学がその領域を広げて 重複すらしている今日、人間が「分かる」「知覚する」「理解する」というのはどういうことなのかを、もっと明確に捉えれば、もっと社会は発展するはず。 もやもやしたものに名前をつけて、対象として扱うところから始めよう。

「空気」の研究

山本 七平 著/文芸春秋
夏休みの自由研究に、このタイトルで模造紙1枚にまとめた子には、図書券1万円!内容は太平洋戦争勃発から終結まで 日本を「動かした」ものについて。
日本に特有と言われるいわゆる「その場の空気」。権力者をも不可逆的な暴挙へと煽動する、 権威そのものでもなく固有名称も持たない何か。現代でもその空気感は存在していると感じる。ただ、新しい価値観との邂逅、小説より奇なる事態が起きる度に、そういう漠然とした空気感の輪郭が徐々に明らかにされつつある、というのが 現代の面白いところであり価値だと思う。茂木健一郎のクオリアのように、それを 対象として扱える時代だと思う。

キャッチャー・イン・ザ・ライ

J.D.サリンジャー 著, 村上 春樹 訳/白水社
訳者としての村上春樹は好きだ。向こうの感性へのより良い梯子を差し出してくれる。といっても、思春期の感性には、分かりすぎるほど分かってしまうトゲみたいなものが突き出ていて、客観的に他人事で読めないというのが実のところ。昔、こういう子が他のクラスにいた。 鋭く、繊細で、面白い。言葉の端々に「おかしみ」があふれて出していてまさにその言動に皆が群れるような。その繊細さゆえに少し悪そうにしているのだと、根拠もなく感じ取れた。きっと、喜ぶ周囲の反応に、全面の呼応をするのが彼の本姓にふさわしいのだ。ホールデンが無条件に愛する妹への言葉もまた 無防備なほどにまっすぐだ。 エピソードを追体験したような 読書だった。

学問のすゝめ―人は、学び続けなければならない

福沢 諭吉 著, 檜谷 昭彦 訳/三笠書房
新訳でやはり読みやすい。国の主人たる国民は、無学を恥とし、社会の繁栄に貢献しなければならない。官のほうが禄の割がいいからと官になるのは 国費の乱用である。また民も官に対して卑屈な態度をとる必要はなく、そうなるべきではない。個人の独立とは経済的側面だけでは十分でない。 ・・・などなど。
これらはすべて開国間もない時代の いわば未開なほとんどの国民の現状を顧みて奮起を促した言葉たち。他にも、法には従え 税金は払え 恥ずかしくも、今の時代に同じ事を言われて当然の人々もいる(年金も含めて)が、そのレベルは明治以前としかいえない。(そういう低いレベルのことを指摘するための書ではない、少なくとも現代においては)独立の気概、自分自身に対する責任とは、等々、今の日本でも課題といえることを 明確に述べている。やっぱり良書だ。

差がつく読書

樋口 裕一 著/角川書店
楽読と実読の区別を勧めている。実読は多読を経て精読へ。読書の方法について分類してその用途を書いています。参考になるものもあります。でも精読に関しては 文学に関することしか書いていない。それが専門だったから仕方ないが、分野によって違う読書法を一概に語るのは 危ういと思う。読み終わったら発信する、これは賛成です。あとは、著者が言うよりも昔から言われていることですが、「読書は他の人の人生を生きる分、読者を豊かにする」これが読書における至言だと思いました。

方法序説

デカルト, Ren´e Descartes, 谷川 多佳子 著/岩波書店
真理は単純であるべき。そう思う。それを求める上での姿勢が、ここでは興味深い。真理を追究するその途上での姿勢(4つの規則)や、自身に定めた4つの格率は、人間がものを考えるということの広い意味での手引きといえると思う。 考え方の整理ととともに、”当座の”指南となる「モラル」というものの存在も不可欠だと先人も考えていたことに、普遍性を思った。 日本人なら、武士道だろうか。

教育欲を取り戻せ!

斎藤 孝 著/日本放送出版協会
著者お得意の新しい言葉「教育欲」ですが、これはあると言っていいと思う。でもその「欲」という言葉で表現してしまったためか、教育に対する意思を比較的”刹那的な”ものとしてしか説明していないと感じる。結果、教育の効果についてもレスポンスの早いものにしか焦点を当てていないな、という印象です。読み始める前に期待した長期的な観点に主眼はなく、どちらかというと教育における振った振られたの短期的なやり取り(駆け引き?)を以って読者の目を引こうとしている、いわばトレンディドラマ的な 売り方が少しいただけませんでした。

かいじゅうたちのいるところ

モーリス・センダック, じんぐう てるお, 神宮 輝夫, Maurice Sendak 著/冨山房
この表紙を見ただけで、20数年前の感覚がよみがえり、つい買ってしまいました。朗読までしてしまいました。
表面は明るく、でも牙をひそめた怖さがのぞく「鱗」のようなタッチがたまらない。

グラフィック 認知心理学

森 敏昭, 井上 毅, 松井 孝雄 著/サイエンス社

認知心理学の窓口を広範に紹介し、興味の端緒につかせてくれるとともに、基本的な知識も得られる。「分かる」ということがどういうことなのかを この本を通して顧みると、いままでいかに自分が あいまいな「分かる」という状態に基づいて すごしているか、が分かる。そういう気づきを経て初めて、物事をより正しく捉えることができるのだと、本当に実感できる。いろいろな実験ばなしも盛り込まれていて、そのどれもが示唆に富んでいて興味深いです。

とらっく とらっく とらっく

渡辺 茂男, 山本 忠敬 著/福音館書店
とらっく。スタートとなるある場所から、山道をたどり、夜の中を、とらっくが走っていく。 ゴールは、別の場所へのスタート。
40年前!に出版されて、 20数年前に生まれた僕が出会い、これからも見せたい、そういう存在です。動きたい、と思う動力は、この本の絵が 原盤になっている。
暗い夜道を進むヘッドライトが、これ以上ない興奮をくれて、焼きついています。

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く

アンドリュー・パーカー, 渡辺 政隆, 今西 康子 著/草思社

あの大進化が「なぜ」起こったか、について、周到にそろえた証拠を連綿と並べた上で、最後に自説を示している。まさに、もやもやとした状況が最後に「像を結ぶ」ようで面白い!全編にわたって、身近な今昔の証拠からそれの意味するところにしたがって時を遡り、状況証拠をそろえていく、という順序が 守られている。ただし中には、ある物証に対して、著者のストーリーに都合のよい 側面だけを用いて論拠に当てているところも2,3箇所あった。また、状況証拠という性質上免れないのかもしれないが、この説の 有力な論拠自身が自己矛盾あるいは反証となりうる、という側面には 触れていないところが、まだまだ検証の余地のあるところだと思う。 特に回折格子の捕食-被食関係における効果について。こういうまとまった科学読み物は、 著者がストーリーの主導権を(当然)握っているので、敢えて反証や 矛盾に敏感になって読んでみましたが、それでも論理における 致命的な欠陥はないと思える、本当に面白い説だと思います。 著者も窮した、「じゃあ眼はなぜ進化したのか」という問いは、「謎が謎を呼ぶ」という科学の醍醐味なのかもしれない。終盤で明らかにされる説を読むと、いくつかの関連する事例が頭をよぎります。それは、「人工衛星の軍事における意味」とか、宗教的な解釈ではないですが、「知恵の実がアダムとイヴに与えた影響」です。あと、個人的には「色彩は脳内以外の外界には存在しない」というのが、改めて興味深かった。これは、まったく意外なところで、ソーシャルワーカーにも役立つのではないか、と思える。

図解・創造的仕事の技術

忰田 進一 著/ソフトバンクパブリッシング
分かりやすく効果的に伝えるための基礎が書かれている。内容はごくごく当たり前のことだけど、これを実践してる例は 普段見る図の中では少ないと思う。普段から説明には必ず図を使ったり、図が思い浮かぶような 言葉を選んでいると心がけている人には、こうして具体的な方法として示されることは興味深い。
ただし、「図解」云々以前に、文章の書き方に統制がなく、 話の展開が分かりづらい。たとえば、何の説明もなく勝手に割り振った多種の記号を、段落記号に使っているようだが、最初は何の意味やらさっぱり分からない。また話の展開についても、章ごとにはストーリーがあるが、その中身は羅列でしかない。そして重大なオチとして、「転載された具体例が、言っているほど分かりやすくない」。
文章の書き方も含めて、6割が反面教師?という本だけど、我慢して内容だけつかめば 役に立つ本。

4次元以上の空間が見える

小笠 英志 著/ベレ出版
進め方がとても丁寧で、ごく自然にn次元への拡張を 感じられました。3次元+1次元の説明のようなことは、実はきっと誰しも普段の生活で工夫しながらやっていることだと思います。
3次元曲面を4次元方向へ"のばす"時の 頭の中の独特の感覚。頭のストレッチになります。

アイデアのつくり方

ジェームス W.ヤング 著, 今井 茂雄 訳/ティビーエス・ブリタニカ

「アイデア」という、捉えどころがなくて 意のままに操れそうにないと思われるこの事柄について、明快に順序だててその作り方を述べている。「考える」という行為自体を整理したい人に お勧めです。

7つの習慣―成功には原則があった!

スティーブン・R. コヴィー, ジェームス・スキナー 著, 川西 茂 訳/キング・ベアー出版

納得し、実践して価値のわかる本。ここに書かれていることが習慣化できれば、本当に精神から充実することができると思う。1つ目から習慣化していくことで、着実に足元を固めながら前進を感じられる。

読むには長い時間じっくり咀嚼するのが必要です。

深海生物ファイル―あなたの知らない暗黒世界の住人たち

北村 雄一 著/ネコ・パブリッシング
深海魚、本当に不思議なものだ。小学生の頃、図鑑でリアルなスケッチで見た深海魚に、見入ってしまった。言うなれば、遠い国にいきなり憧れの人が できた感じ。この本は探査船で撮った写真入りなので、本物です。
すごい。なにこれ?笑うしかない。

落とし穴―鎌倉釈迦堂の僧たち

杉本 苑子 著/PHP研究所

落とし穴だよー って警告もなしにある、それが落とし穴。小説も映画も、「まさかそんな風になるとは」っていう展開は 以外に少ない。小説も映画も、登場人物に感情移入させることによって 見る者を「物語」に参加させるけれど、物語とは少し違う「お話」がここにある。この本には、落とし穴としか言いようのない 展開が待っている。しかも「善意」や「道」に 身を捧げる僧たちをしてそんな落とし穴におとしめてしまう。

「人間はなぜ落とし穴に落ちてしまうのか」・・・「それは人間だから落ちてしまうのだ」 という問答が長い言葉で小説になっている という感じ。

小川未明童話集

小川 未明 著/新潮社

童話の要旨は因果応報。でもその結果にいたるあるいはいたらねばならないことが いっぱいある、ということも同時に 教えてくれている。童話としては異色の「野ばら」。『青年は黙礼をしてばらの花をかいだのでありました』小学校の教科書に出てきた「野ばら」。童話でありながら死を行間に読ませる文章に、これにかかわるいろいろな人の気持ちが にじみ出ている。

水域

椎名 誠 著/講談社

はじまりはいつも雨。・・・みたいにすでに巻頭から水。いつからなのか、なぜなのかも分からない、水に覆われてしまっている世界。その状況の描写だけで展開していく物語。だからこそ刻々と過ぎる「今」が面白い冒険小説。ある意味、ドラマの"24"よりずっと高度なリアルタイム性を感じさせてくれる。

終盤で行きつく、ある過去の記録で、一気に深みの増す感じが好きです。

武装島田倉庫

椎名 誠 著/新潮社

荒廃と争乱の世界。ハリウッド映画のように機械的な恐怖の未来ではなく、もっと「生き物」的な「泥沼」的な泥濘状態。かすかにつながっている個々の物語り群が、そこで生きていく人間そのものの運命の危うさそのものみたいで、生命の進化を追うような面白さを覚える。
1回読んだら、物語の登場人物のつながりを、時系列の系統図にして整理するともっと面白い!

天平の甍

井上 靖 著/新潮社

『こういうときになって、以前にはあれほど軽蔑していた単なる写経というものを、いやそれこそが、守るべき全てだと心底感じるようになる』・・・ この心境、きっと誰も経験する。漠然と存在に期待していた大きな何かが、近づく段になって実は最初から目の端に止まっていたちっぽけな糸きれが全てだった、という状況。それでもその糸切れが全て、それを 守ることが今の自分の全意義だという思い。

対象ではなくてそう思える境地こそが 尊い何かなのかもしれない。

真昼のプリニウス

池澤 夏樹 著/中央公論社

うさぎは、分かっているのに不思議と罠に つかまってしまう。
文中に出てくるこの一つのエピソードが、
まさに、説明の付かない人間の「衝動」を うまく表していると感じます。
身の危険を以っても鎮められない自身の 内なる衝動に身を任せる主人公の姿は、
読者にも同じような高揚感を抱かせます。
きっと読者の経験に呼応する何かがあるのだと思う。
クライマックス、最高峰に登りつめるような、
数学の「極限値」とも言うべき数行で 沸騰です。

スティル・ライフ

池澤 夏樹 著/中央公論社

『大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一定の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。

 たとえば、星を見るとかして。』

この本は2つの世界をつなぐ糸の一つです。

物の見方考え方

松下 幸之助 著/PHP研究所

長年にわたる経験に基づく「本質」が ちりばめられています。いくつかの言葉に、心から信奉してもいい と思わせるものがあります。ただし、書かれた年代が古いため、現在に対する記述は憶測にとどまっており、外れているものも あるということは要注意です。また、ある経験を他の全ての事柄に拡張して 一般論として語っているところも、聞こえはいいですが「役立つ言葉」というよりは「詩的な名言」にとどまるといっていいと思います。

本質と思える言葉をうまく拾い出して 役立てるべき本です。

2009年4月10日金曜日

武士道―サムライはなぜ、これほど強い精神力をもてたのか?

新渡戸 稲造 著、奈良本 辰也 訳/三笠書房

スタンダードなのだなあと思っていながら 読んだことがなかった。実は「国家の品格」に出てきたのをきっかけに読んだ。(あれは極端で偏りすぎている)訳が新しいので読みやすい。

「序文」1ページ目で、武士道の意義は明瞭簡潔に示されている。新渡戸稲造がベルギーの法学者との会話で受けた一言

「あなたがたの学校では宗教教育がないとは。ではいったいあなた方はどのようにして子孫に 道徳教育を授けるのですか?」

そう、序文で早くも気づかされた武士道の意義とは、「道徳の規範」。 思えば、子供心から確かにあった善悪の区別から始まって、「かっこ悪い」事への共通認識、道義的な壁の前で迷ったときの無意識の道しるべ・・・こういうものすべては、「武士道」に、弱いながらも確かにその残り香を感じる。

今について言えば、合理主義だけで説明できない日本特有の道徳観、価値観。 最近それらが合理的なものに押されて薄れつつある原因は、規範とするに欠点があるからではなく、そのルーツがはっきりしなくて基盤が脆弱だからじゃないだろうか。その基盤こそが、武士道だったのではないか、と感じた。

と、いっても封建社会を目指すとか右寄りになろうとかいうのが趣旨ではない。終盤では新渡戸自身も武士道の衰退を見据えている。それでも「いずこよりか知らねど近き香気」として、形式でない精神の中で生き続ける。

四色問題

ロビン・ウィルソン 著、 茂木 健一郎 訳 /新潮社

四色問題が、証明された今もなお問題と
言われる理由は、読んでみて分かった。
つまり、読んでも証明の全容が分からない。
なぜならその証明の主要部分はコンピュータによるものだから。

でもこの問題がどこか魅力的に感じることには、
そんなエレガントでない証明も手伝っているのかもしれない。
それに「地図職人にははるか昔から経験的に知られていた」ことや、
「今もコンピュータによる証明以外は見つかっていない」
なんてことが、どこか神秘的。

最終的には、へイウッドの予想のg=0の場合に
該当するなんて、そんな拡張も魅力的。

国家の品格

藤原 正彦 著 /新潮社

内を見直すひとつのきっかけになる。日本人が無意識に抱く、欧米諸国との比較に基づいた根拠の不明確な劣等感。それって本当に確かなの? と、日本を見直すための土台を照らしてくれる。

ただし文中で著者自身が指摘を受けたと言っているとおり、半分くらいは著者の誇張や極論、と思ってフィルターを通して見るのがちょうどよいと思う。そうでないと、著者の意図と反してナショナリズムに陥る読者が増える危険性がある。

大切なのは情緒、美への感受性。これには足元を「洗われた」気がする。

科学革命の構造

トーマス・クーン著、中山 茂 訳 /みすず書房

「科学」って、絶対的で普遍的で、
常に不動の価値基準を与える・・・
そんな風に妄信していたのは、子供から大人になる手前まで。
「科学ほど普遍性のないものはない」というのが
この本の要約になると思います。
どんどんなされる発見や偶然の産物によって、
科学の「本質」はどんどん書き直されていく。
間違ったって、いいんだ。そのとき正しいんだから。

NPOという生き方

島田 恒 著 /PHP研究所

NPOに興味があって読んで見た本。
ふと考えてみれば、どんなに技術やサービスを謳う企業も、
営利なくしては続かない世の中。
そんな中で「非営利」を掲げるとは、
どんな団体なんだろう、ということが最初は疑問だった。

でも読み始めると、ここには「団体」として存続することの
真の意味が書かれていることに気づいた。
NPOのみならず、会社、その他団体に対しても
考えを深められる。
特に、日本的な経営とその長所・短所についての記述は、
自分自身の属するさまざまな「団体」の本質について、
再考させられる。

白仏

辻 仁成 著 /文芸春秋

生きることと死ぬことを 本当に興味深く考える本。

介護や、高齢の方と関わる仕事の人、
またそれ以外にも、
普段から高齢の方について
考えたことのある人にとって、
とても思うところの多い本だと思います。

静かな感動がずっと残る。
すごくいい。